以前に御師 橋村肥前大夫邸跡をご紹介しましたが、今回はその追加記事となります。
昭和５９年に伊勢文化会議所から発行された伊勢古地図研究会編集の「山田惣図絵」の筋向橋（すじかいばし）付近を拡大した画像です。
鉄道が開通する以前の明治中頃まで、筋向橋は名古屋・京都方面から宮川の桜の渡し（下の渡し）を経由する伊勢街道と奈良・和歌山（熊野）方面から宮川の柳の渡し（上の渡し）を経由する伊勢本街道の合流地点になり、交通の要衝でありました。
山田惣図絵は寛文２年（１６６２年）ころの制作とされ、筋向橋の少し上に「橋村才右衛門」とありますが、ここが橋村宰記（さいき）家で御祓銘が橋村肥前大夫になります。筋向橋の下方に「橋村善左エ門」とありますが、こちらが本家・橋村主膳家で御祓銘が橋村八郎大夫ではないかと思われます。
現在の筋向橋の画像です。黒い車の奥に細い路地があり、その路地を少し進むと橋村肥前大夫邸跡があります。
安永六年外宮師職諸国旦方家数改覚（１７７７年）には上中之郷（現在の常磐町）の項に、「三方家 橋村主膳 御祓銘 橋村八郎大夫」、「年寄 橋村主水 御祓銘 橋村肥前大夫」の記載があります。
明治２９年（１８９６年）１１月に小柳津篤太郎から発行された「神都土産繁昌記」に掲載されている橋村太夫の広告の画像です。旧御師・本家と書かれていて、橋村八郎太夫・橋村肥前太夫・橋村かすゑと併記されています。
明治４年（１８７１年）に御師制度が廃止された後も橋村八郎大夫、橋村肥前大夫ともそれぞれ旅館業を営んでいたと思われ、明治８年（１８７５年）に橋村肥前大夫の宰記家当主が早世したため、翌年に橋村八郎大夫の本家主膳家に引き請けられました（合家）。その際に旅館の営業場所は肥前大夫邸に統一されたのではないでしょうか。
明治３１年（１８９８年）１０月に執行猪太郎から発行された「関西参宮鉄道案内記」に掲載されている橋村大夫の広告の画像です。参宮齋舘と書かれていて、この広告も橋村八郎大夫・橋村肥前大夫・橋村かずへと併記されています。
明治３１年１月に橋村大夫の土地と建物は専売局に買収され「山田葉煙草専売所」になり、そのときに旅館業は廃業したと思われます。
明治３０年１１月に参宮鉄道（現在のＪＲ参宮線）が山田駅（現在のＪＲ伊勢市駅）まで開通して参宮者の流れが変わってしまい、急転直下で買収されることとなって廃業後に広告が掲載されてしまったのではないのでしょうか。
現在の橋村肥前大夫邸跡です。
昭和１５年（１９４０年）４月に創元社から発行された「上方 伊勢参宮号」の表紙の画像です。
上方 伊勢参宮号に掲載されている「御師橋村肥前大夫門（現在大橋館に移建）」の画像です。大橋館は元々は内宮の宇治橋の西詰にありましたが、移転・買収などを経て、このころには外宮前の三日市大夫次郎邸の南半分を引き継いだ宇仁館の別館に名付けられていました。
この画像の説明文に書かれているとおりだとしますと、以前の記事御師 橋村肥前大夫邸跡で三重県ホームページの三重の歴史・文化散策マップの引用により、伊勢市一色町にある昌久寺の山門は「橋村大夫邸のものだったそうです」と記述しましたが、橋村肥前大夫以外の橋村家の門なのか門が複数あったのかは不明です。
昭和１０年（１９３５年）ころに発行された絵はがき「宇仁館別館 大橋館」の画像です。立派な門になりますね。
移建された橋村肥前大夫邸の門があった場所の画像です。現在は津地方法務局・伊勢支局になります。画像の手前に写るのが御幸道路です。
名古屋地方専売局宇治山田出張所（大正１０年に改称）の社屋となった元橋村肥前大夫邸は昭和３年（１９２８年）に新築されることになり、このときに神都図書館の建物として移建されました。門の移建は同時期かどうかは不明ですが、昭和１０年ころまでには移建されていました。
元三日市大夫次郎邸の北半分を引き継いだ宇仁館別館三日市旅館は昭和２０年（１９４５年）の戦災により焼失してしまったので、南半分の宇仁館別館大橋館もこのときに焼失したものと思われます。
出典：２０２１年 秋田耕司発行・著 御師 橋村大夫邸の流転、明治２９年 小柳津篤太郎発行 神都土産繁昌記、明治３１年 執行猪太郎発行 関西参宮鉄道案内記、昭和１５年創元社発行 上方 伊勢参宮号、昭和５９年 伊勢文化会議所発行 山田惣図絵、昭和５９年 皇學館大学出版部発行 神宮御師資料 外宮篇二、昭和６１年 皇學館大学出版部発行 神宮御師資料 外宮篇四、昭和６１年 国書刊行会発行 ふるさとの思い出 写真集 明治大正昭和 伊勢二見小俣
